消費税の免税業者は、課税業者になるか、取引をあきらめるか、消費税分を値引きするか、を迫られます。
能見 宇多江(のみ うたえ・スナック)
消費税の免税事業者は、登録番号が発行されず、インボイスが出せません。そのため、取引先や親請け、業務委託元から取引を断られたり、課税事業者になるよう求められたりすることが懸念されます。
赤字でも納税が求められる消費税は、厳しい経営に追い打ちを掛ける、過酷な税金です。小規模な事業者ほど受け取ることが困難です。領収書の保存や記帳、税額計算など、分かりにくくて手間のかかる事務負担も伴います。
免税点や簡易課税は、小規模な事業者の過重な納税協力負担を避け、最低生活を保障するよう設けられている制度です。その趣旨が、さらに生かされることこそ大切です。
消費税の課税業者は、本則課税の場合、仕入れ・外注・業務委託など、免税業者との取引にかかる消費税を、自分が被るか、取引先を見直すか、を迫られます。
内立 泰三(うちたて たいぞう・工務店)
消費税の課税事業者(本則)は、インボイス制度の下で、消費税の仕入控除ができるよう、取引相手が消費税課税かどうかを確認し、対策を取るよう迫られます。財務省はインボイスの目的を「納税者同士で相互けん制を図る」と説明(全国中小業者団体連絡会交渉 2018年9月21日)。事業者を互いに監視させて、免税業者をあぶり出そうというものです。インボイスは、信頼に基づく取引関係を変質させる、まさに消費税による“いんぼう”です。業界大手はすでに、下請業者や業務委託先に「いずれ課税業者になってもらう」と圧力をかけ始めています。
課税(本則も、簡易も)でも、免税でも、事業者はすべて、税率毎に売り上げを区分したレシートの発行を求められます。本則では、税率別に区分した記帳負担も加わります。
多部杉 万福(たべすぎ まんぷく・飲食店)
すべての事業者は、消費税10%・8%の複数税率への対応を求められます。8%の適用は、食品表示法に規定する、酒類を除く食品などです。みりん風調味料は8%の一方、みりんは酒類で10%とされます。同じ食品でも、出前や弁当の持ち帰りは8%、店内飲食は10%と、線引きは複雑です。
事業者は、領収書・請求書に、2つの税率ごとに、合計額を分けて記載するよう求められます。免税や簡易課税の事業者も、お客や取引先から10%・8%に分けるよう求められれば、断ることは困難です。
本則課税の事業者はさらに、10%か、8%か、区別できるように帳簿を付けて、保存することが求められます。
このままインボイス制度が実施されれば、長年の地元工務店や職人さんとの関係が、悪化する恐れがあります。課税業者である工務店から見ると、免税事業者の私に仕事を出すと、仕入税額控除ができないため、費用が増えて利益が減ります。私の選択肢は、相手の税額控除分を値引きするか、甘んじて仕事から退くか、意に反して課税業者を選択し、消費税を支払うか、になってしまいます。
業界では、メーカー各社がほぼ同時に、材料を値上げしました。値上げの先取りは「政府主導」と、聞かされています。
長崎・東彼民商
戸崎和久さん(内装)
インボイス制度になれば、お世話になっている下請業者に「お宅はインボイスを発行できますか?」といちいち確認しなければなりません。こんなことは、相手に失礼にあたると思っています。下請業者さんや職人さんは、技術や人柄、これまでの付き合いなどで決めてきました。インボイスの対応で、選別せざるを得ないということは、取引慣習を壊し、業者同士の関係をダメにしてしまいます。
消費税が10%になれば、家を新築する人はますます減り、リフォーム工事も、余裕がある人しかできなくなってしまいます。
岩手・北上民商 婦人部
佐藤ヒロ子さん(建築)
うどんやお好み焼きなど、安くておいしい食べ物を販売し、お客さまとの楽しい触れ合いに感謝し、地域との結び付きを大事にしています。小さな店では、材料・仕入に消費税を払っても、お客さまから消費税はもらっていません。煩雑さから、8%・10%の税率だからといって、同じ品物で値段を変えることはできません。そもそも消費税をもらってないので、値段を上げることは考えていません。
消費税5%増税のときは値上げせずに頑張りましたが、8%のときは、スーパーの出店などで値上げ。なんとか維持してきましたが、この先が不安です。
岡山・玉野民商
植田幸男さん(飲食店)