※このQAの記事は全国商工新聞(2019年8月26日付)の内容になります。
税率8%から10%への増税で、一世帯当たり年間8万円もの負担増になります(※)。事業者の納税額も増えます。売り上げの税率が10%で、仕入れの税率が8%の場合など、納税額が2倍になるケースもあります(図1)。
低所得者対策として飲食料品(アルコール除く)や新聞(週2回以上発行)を「軽減」税率にするとしていますが、「軽減」とは名ばかりで8%に据え置くだけです。しかも包装費や運送経費などは10%が適用されるため、商品価格は据え置かれず、値上げは必至。実際に新聞代は今年1月から値上がりし、食品業界も3月以降、飲料、即席麺、冷凍食品などの値上げが相次ぎ、8月も値上げラッシュが続いています。
政府は消費税増税前に「値上げを行うなど経営判断に基づく自由な価格設定を行うことを何ら妨げるものではない」(「消費税率の引き上げに伴う価格設定について」(ガイドライン、2018年11月28日)としており、増税に便乗した値上げを容認しています。
※増収分5・6兆円から「軽減」税率分1兆円を差し引いた4・6兆円を、世帯数5800万7536(18年1月1日現在)で割ったもの
インボイスとは8%と10%の税率ごとに区分した適格請求書(請求書や領収書、納品書)のことです(図2)。制度導入は2023年10月からです。
インボイスを発行するためには、課税業者となって税務署に適格請求書発行事業者の登録申請をしなければなりません。インボイスが発行できないと、取引先は仕入税額控除の適用ができないため、取引を避けられることが想定されています(図3)。そのため、インボイスを発行できない免税業者は取引からの排除を覚悟するか、課税業者になるかの選択を迫られます。
不適格なインボイスを発行すれば、罰則(1年以下の懲役または50万円以下の罰金)もあります。
申請から登録の流れと登録申請のスケジュールは一番下の図のとおりです。
インボイス制度が導入されるまでの4年間は経過措置(区分記載請求書等保存方式)が設けられ、①軽減税率の対象である記号(※)②税率ごとに区分した合計金額を記載します。区分記載請求書等は、免税業者でも発行できます。
導入後も経過措置として6年間の特例が設けられ、免税業者からの仕入税額控除も初めの3年間は80%、その後の3年間は50%認められます。
クレジットカードやQRコードなどのキャッシュレス決済を利用した買い物にポイントを還元するもの。実施は10月から9カ月間の限定です。
幅広い商品やサービスが対象ですが、減税措置がある住宅や自動車、換金性の高い商品券や切手、学校の入学金や授業料は対象外。還元を受けられるのは、中小規模の事業所や個人事業主が経営するスーパーやコンビニ、飲食店、青果・精肉、鮮魚店、文具店、ガソリンスタンドなど多岐にわたります(図5)。
ポイント還元率は利用額の5%、大手フランチャイズ(FC)加盟店は2%。軽減税率とセットになることで買う商品、買う場所、支払い方法の違いによって消費税の実質負担率は5段階になり、混乱は必至です。
初期投資も決済手数料も不用で、入金は翌日という「ペイペイ」などQRコードを使ったモバイル決済も期間限定でキャンペーンされていますが、現状ではキャッシュレス決済の中心はクレジットカード決済です。
クレジットカードの月々の通信費、クレジット会社への手数料(上限3・25%)は事業者が負担しなければならず、決済と入金までに時間差が生じ、資金繰りにも影響が出てきます。
ポイント還元事業への参加申請をした店舗数は対象店舗の約1割に過ぎない約24万店(7月31日時点)と進んでいない状況です。
帳簿や請求書等がどう変わるかは、図2のとおりです。帳簿はこれまでの記載に加えて、8%の対象品目であることが分かるように記号(※)を付けます(図6)。適格請求書は8%対象品目への記号(※)と税率ごとに合計した税込み価格を記載します。
8%対象の商品を販売しない業者でも、福利厚生費(従業員の夜食や会議での弁当など)や交際費(取引先へのお中元、お歳暮など)の経費に8%対象品目が含まれる場合は対応が必要になります。区分経理に対応した帳簿や区分記載請求書等の保存が、仕入れ税額控除の要件になります。
税額計算のイメージは図7のとおりです。軽減税率になっても、売上額税から仕入税額を控除する計算方法は変わりません。
民商では軽減税率となった場合、記帳や計算など対応を応援。「自分で記帳し、申告できる」ように、みんなで教え合いながら対策を考えています。
売り上げが5000万円以下で売り上げ税率ごとに区分することが困難な場合(①仕入れを税率ごとに管理できる、②①の特例を適用する以外、③①、②の割合の計算が困難)は、税額計算の特例が活用できます(図8)。特例によって納税額が変わる可能性がありますので、どの特例に当てはまるか、検討しましょう。
仕入れを税率ごとに区分できない場合は、簡易課税制度を活用して仕入れ税額を計算できます。消費税の課税業者で、今年度分の確定申告で簡易課税を選択する場合、特例として課税期間の末日(個人は12月31日まで)までに「簡易課税制度選択届出書」の提出が必要です(2年間の継続が必要)。
10%への税率引き上げと複数税率やインボイス制度の実施は憲法と「税制改革法」に違反しており、「三つの害悪」を伴います。景気を回復させ、国民の暮らしを守り、「10%廃業」危機の打開へ、署名にご協力ください。